2020年4月1日に施行された改正民法により、賃貸人の修繕義務について変更があり、借主による修繕権に関する規定が創設されました。
不動産を経営している方は、修繕義務や修繕権について正しい知識がないと予想外のトラブルに巻き込まれる可能性があります。改正法の内容をしっかり理解しておきましょう。
今回は民法改正によって賃貸人の修繕義務にどういった変更があったのか、借主の修繕権も含めて弁護士が解説しますので、収益物件をお持ちの方はぜひ参考にしてみてください。
1.賃貸人の修繕義務とは
賃貸人は、貸している物件に不具合が生じると修繕をしなければなりません。
賃貸借契約において、賃貸人は賃借人へ物件を利用できる適正な状態で貸し出さねばならない義務を負うためです。これを賃貸人の修繕義務といいます。
たとえば電気がつかなくなった、水が出なくなった、雨漏りがするなどの不具合が発生すると、速やかに自分の費用で修繕して借主に不便が生じないようにしなければなりません。
賃貸人が修繕義務を果たさないと債務不履行状態となってしまいます。
ただ修繕義務はどのような場合にも認められるとは限りません。今回の民法改正により、「借主の責任によって修繕が必要になった場合」には賃貸人に修繕義務が発生しないことが明確にされました。
第606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
借主が故意や過失によって不具合を発生させた場合にまで賃貸人が費用を負担して修繕するのは不公平と考えられるためです。
実務に大きな変更はない
ただ現実には、従来においても借主の責任によって不具合を発生させたときには賃貸人に修繕義務がないと考えられていました。実務上も契約書で確認するなどして、そういった取り扱いとなっている例がほとんどです。今回の法改正は、従来の通説や実務を法文上も明確化したものといえるでしょう。
2.借主の修繕権について
今回の改正民法では、借主の修繕権に関する規定が新設されました。
第607条の2(賃借人による修繕)
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。
つまり以下のような事情があると、借主は自分で物件の修繕を行えます。
- 借主が賃貸人へ不動産の修繕が必要であることを伝えたのに修繕しない場合
- 賃貸人が修繕の必要性を知った後、相当期間内に修繕対応しない場合
- 急迫の事情がある場合
借主が自費で修繕すると、後に賃借人へかかった修繕費用を償還請求できます。
裏を返せば、借主が不必要な修繕を行った場合であっても「修繕権」の行使により、費用償還請求されるリスクが発生するといえます。
トラブルを避けるには、賃貸借契約において修繕権の行使条件や範囲、費用負担方法や具体的な手続きなどについて定めておく必要があるでしょう。
3.賃貸不動産の経営については弁護士へ相談を
賃貸不動産を経営していると、さまざまな法律トラブルに巻き込まれる可能性があります。
家賃を滞納された、賃料の減額を請求されたといった例は多々ありますし、修繕や敷金に関するトラブルなども頻繁に発生するものです。
不動産経営にともなうリスクを可能な限り抑えて適切に対応するには、弁護士によるアドバイスやサポートを受けておくと安心です。
秋山慎太郎法律事務所では、不動産オーナー様への支援に力を入れて取り組んでいます。千葉県で不動産を経営しておられる方、不動産に詳しい弁護士をお探しの方は、お気軽にご相談ください。