従業員を懲戒した場合、社内外へ公表する企業が少なくありません。公表により、他の従業員へ服務規律意識を高める効果が期待されます。
ただし公表の方法によっては「名誉毀損」となり、懲戒対象となった従業員から賠償金を請求されるリスクも発生します。
懲戒処分を公表する際には、関係者の権利を不当に侵害しないよう注意しなければなりません。
今回は、懲戒処分の公表が違法になる例や安全に懲戒制度を運用する方法を弁護士の視点からお伝えします。
懲戒処分を公表する目的
会社が懲戒処分を公表するのは、懲戒対象者以外の他の従業員の規律意識を高めるためです。つまり社内の従業員に懲戒事例を伝えて、再発を防ぐのが主目的です。
本人をみせしめにして報復するためではありません。
みせしめ的な情報公開をすると名誉毀損になりやすいので、まずは「懲戒の目的は本人を懲らしめることではなく規律意識を高めること」という目的をしっかり理解しましょう。
懲戒処分の公表が名誉毀損になるケース
懲戒処分を公表するとき、一般的に、以下のような要素があると、名誉毀損が成立しやすくなります。
実名で公表
懲戒処分を公表する際には、対象者を実名で特定するか匿名で事案の概要のみ伝えるか、選択しなければなりません。実名で懲戒処分を公表すると本人が特定され、社会的評価が大きく低下する可能性があります。裁判例でも、実名で懲戒事案が公表されると、内容が真実であっても名誉毀損が成立すると判断されやすい傾向があります。
一方、匿名で対象者が誰かわからなければ、名誉毀損にはなりません。特に氏名公表の必要性がないなら、懲戒処分の公表は匿名で行うようお勧めします。
証拠がないことを推測で記載している
懲戒処分を公表する際には、原因となる事実(問題行動)を記載する必要があります。
このとき、証拠がないことを推測で記載すると、名誉毀損となる可能性が高まります。客観的に明らかに認められる事実のみを簡潔に記載しましょう。
社内の規律維持に無関係な詳細な記載をしている
懲戒公表の目的は、社内の規律維持です。それとは無関係な事項についてまで詳細に記載したり、一方的で主観的な評価を記載したりすると権利侵害となってしまう可能性があります。
セクハラ、パワハラ案件などで、関係者のプライバシーを侵害している
セクハラやパワハラ事案では、加害者(懲戒対象者)だけではなく被害者や同僚などが関与するケースが多数です。関係者のプライバシーを侵害すると、被害者などの関係者からもプライバシー権侵害や名誉毀損を主張される可能性があります。
不必要に長期間掲載し続ける
掲示板で懲戒事由を掲載する場合、必要性もないのに長期に渡って掲載し続けると名誉毀損と判定されやすくなります。掲示機関は1日~3日程度にとどめるのが無難でしょう。
社外へ公表する
企業HPなどで懲戒事案を公表すると、世間一般へ広く情報が伝わってしまいます。
社外へも情報が伝わると本人へ多大な影響が及び、名誉毀損による損害が大きくなってしまいます。
そもそも「社内の規律意識を高める」という懲戒公表の目的からすると、社外への公表は基本的に不要です。
重大事件で世間への説明が必要な場合など、特別の事情がなければ、社外への公表は控えましょう。懲戒処分は社内の従業員向けに掲示板への掲示、社内メールや社内報への記載などによって公表すべきです。
安全に懲戒制度を運用するために
懲戒制度の運用方法を間違えると、従業員から「懲戒解雇は無効」「降格は不当な不利益取り扱い」などと主張されるリスクが発生します。懲戒処分の公表を行う際にも、本人や関係者の名誉権やプライバシー権へ配慮しなければなりません。
弁護士が懲戒制度運用のご相談に対応いたしますので、千葉県で懲戒制度の規定・運用方法に迷われたときにはお気軽にご相談ください。