残業代を請求しようとしても、具体的にいくらの残業代が発生しているのか正確に算定できないケースが少なくありません。労働者側には残業代を計算するための資料が十分に揃っていないケースが多いからです。
そんなときには「推定計算」を行って企業側へ請求する残業代を算定できることもあります。
この記事では推定計算とは何か、残業代の証拠がないときにどのように対応すればよいのか弁護士が解説します。
1.未払い残業代の立証は労働者側がしなければならない
未払い残業代を請求するには残業代を計算しなければなりません。
訴訟になると、残業代の金額も労働者側が証明する必要があります。裁判では「証拠のないことは認められない」ので、労働者側が残業代を立証できなければ、裁判に負けてしまうのが原則です。
残業代の計算で必須となるのが残業代の証拠です。たとえばタイムカードやシフト表、パソコンのログインログオフ記録などが証拠になりえます。
残業代の立証ができないケースが多い
ただし現実的に労働者側が残業時間を証明するのは簡単ではありません。
たとえばタイムカードやシフト表、作業報告書などは通常、会社が把握しているでしょう。
会社がタイムカードなどの証拠を労働者側へ提示するとは限りません。
またタイムカードに全ての勤務時間が正確に打刻されているとも限りません。
パソコンのログインログオフ記録についても、会社が労働者へ貸与していたパソコンの場合には労働者が入手できないケースが多いでしょう。
そうなると、労働者側による残業時間の立証が困難になってしまいます。
そんなときには残業代の推定計算が認められる場合があります。
2.残業代の推定計算とは
残業代の推定計算とは、正確に証明できない残業時間について他の事情から推定を及ぼし、残業代を計算する方法です。
合理的な理由がないにもかかわらず、企業側が容易に提出できると考えられる計算資料を提示しない場合には、公平の観点からして推定計算が認められる可能性があります。
労働者側が十分な証拠を持っていなくても、推定計算によって残業代が認められる事例は珍しくありません。
手元に十分な証拠が揃っておらず企業側が非協力的な態度をとっていても残業代請求できる可能性はあります。あきらめる必要はありません。
3.推定計算の具体的な方法
残業代の推定計算の方法は、事案によって異なります。
たとえばタイムカードがある場合とない場合でも異なりますし、タイムカードがあっても正確に打刻されていない場合にはまた対応が異なってきます。
参考として、タイムカードなどの証拠が存在する月としない月があった事案において、以下のような計算方法がとられた裁判例があります(東京地裁平成23年10月25日)。
このようにして、タイムカードなどの証拠がない月や、タイムカードがあっても打刻が不十分な月についても残業代が認められました。
4.残業代の証拠がなくてもご相談ください
確かに残業代の証明は労働者側の義務ですが、場合によっては公平性の観点から残業代の推定計算が認められる可能性があります。ただしその場合でも、計算方法は合理的でなければなりません。
専門知識がなければ妥当な方法による推定計算は困難でしょう。
千葉の秋山慎太郎総合法律事務所では労働者の支援にも積極的に取り組んでいます。残業代請求でお悩みがありましたら、お手元に残業代の証拠が揃っていなくてもお気軽にご相談ください。