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【不動産】改正民法における賃貸人の修繕義務、借主の修繕権について

2022-04-21

2020年4月1日に施行された改正民法により、賃貸人の修繕義務について変更があり、借主による修繕権に関する規定が創設されました。

 

不動産を経営している方は、修繕義務や修繕権について正しい知識がないと予想外のトラブルに巻き込まれる可能性があります。改正法の内容をしっかり理解しておきましょう。

 

今回は民法改正によって賃貸人の修繕義務にどういった変更があったのか、借主の修繕権も含めて弁護士が解説しますので、収益物件をお持ちの方はぜひ参考にしてみてください。

 

1.賃貸人の修繕義務とは

賃貸人は、貸している物件に不具合が生じると修繕をしなければなりません。

賃貸借契約において、賃貸人は賃借人へ物件を利用できる適正な状態で貸し出さねばならない義務を負うためです。これを賃貸人の修繕義務といいます。

 

たとえば電気がつかなくなった、水が出なくなった、雨漏りがするなどの不具合が発生すると、速やかに自分の費用で修繕して借主に不便が生じないようにしなければなりません。

賃貸人が修繕義務を果たさないと債務不履行状態となってしまいます。

 

ただ修繕義務はどのような場合にも認められるとは限りません。今回の民法改正により、「借主の責任によって修繕が必要になった場合」には賃貸人に修繕義務が発生しないことが明確にされました。

 

第606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

 

借主が故意や過失によって不具合を発生させた場合にまで賃貸人が費用を負担して修繕するのは不公平と考えられるためです。

 

実務に大きな変更はない

ただ現実には、従来においても借主の責任によって不具合を発生させたときには賃貸人に修繕義務がないと考えられていました。実務上も契約書で確認するなどして、そういった取り扱いとなっている例がほとんどです。今回の法改正は、従来の通説や実務を法文上も明確化したものといえるでしょう。

 

 

2.借主の修繕権について

今回の改正民法では、借主の修繕権に関する規定が新設されました。

 

第607条の2(賃借人による修繕)

賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。

一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。

二 急迫の事情があるとき。

 

つまり以下のような事情があると、借主は自分で物件の修繕を行えます。

  • 借主が賃貸人へ不動産の修繕が必要であることを伝えたのに修繕しない場合
  • 賃貸人が修繕の必要性を知った後、相当期間内に修繕対応しない場合
  • 急迫の事情がある場合

 

 

借主が自費で修繕すると、後に賃借人へかかった修繕費用を償還請求できます。

裏を返せば、借主が不必要な修繕を行った場合であっても「修繕権」の行使により、費用償還請求されるリスクが発生するといえます。

 

トラブルを避けるには、賃貸借契約において修繕権の行使条件や範囲、費用負担方法や具体的な手続きなどについて定めておく必要があるでしょう。

 

3.賃貸不動産の経営については弁護士へ相談を

賃貸不動産を経営していると、さまざまな法律トラブルに巻き込まれる可能性があります。

家賃を滞納された、賃料の減額を請求されたといった例は多々ありますし、修繕や敷金に関するトラブルなども頻繁に発生するものです。

不動産経営にともなうリスクを可能な限り抑えて適切に対応するには、弁護士によるアドバイスやサポートを受けておくと安心です。

 

秋山慎太郎法律事務所では、不動産オーナー様への支援に力を入れて取り組んでいます。千葉県で不動産を経営しておられる方、不動産に詳しい弁護士をお探しの方は、お気軽にご相談ください。

【企業・顧問】従業員と締結すべき「競業避止義務契約」について

2022-04-14

従業員が会社と競業する事業を行うと、会社に大きな損害が発生する可能性があります。

特に退職後の元従業員に競業させないためには「競業避止義務契約」を締結しなければなりません。

 

ただし競業避止義務契約を締結させても、必ずしも法的に有効になるとは限りません。

今回は従業員と締結すべき「競業避止義務契約」について、弁護士が解説します。

 

1.競業避止義務とは

競業避止義務とは、相手とライバル関係になる事業や仕事を行ってはならない義務です。

 

たとえば会社が従業員へ競業避止義務を課したり、M&Aの際に譲渡会社の元社長へ競業避止義務を課したりするケースがよくあります。

 

従業員は会社の内情をよく知る立場ですし、取引先とのコネクションを持つものも少なくありません。そういった立場を利用して会社と競業されると、会社には大きな損害が発生するリスクが発生します。

そこで会社の利益を守るため、従業員に競業避止義務を課す必要があるのです。

 

 

2.在職中の競業は禁止される

一般的に、従業員の在職中は当然に競業避止義務を負うと考えられています。

労働契約をまっとうするには競業避止義務が必須なので労働契約に付随するともいえますし、信義則上の義務ともいえるでしょう。

 

また多くの会社では就業規則で競業避止義務を定めているものです。そういった会社で在職中の従業員が競業行為をすると、懲戒処分や損害賠償請求できる可能性もあります。

 

 

3.退職後の元従業員とは競業避止義務契約が必要

一方、退職後の従業員には当然には競業避止義務が及びません。

退職した従業員には職業選択の自由が認められるので、どういった企業に就職するのも起業するのも基本的に自由だからです。退職後の元従業員に競業避止義務を負わせるには「競業避止義務契約」を締結するか、就業規則に退職後の競業も禁止する規定をもうけなければなりません。

 

4.競業避止義務契約を締結しないリスク

退職後の従業員に競業避止義務を課さなかったら、企業側には以下のようなリスクが発生します。

 

  • 元従業員が会社の顧客情報を持ち出して営業する
  • 元従業員が会社の取引先を奪ってしまう
  • 元従業員が会社の他の従業員を引き抜く
  • 元従業員が会社独自のノウハウを勝手に使って同種の営業をする

 

上記のような問題が起こっても差し止め請求できなければ、会社としては多大な損害を受けてしまうでしょう。そうならないために競業避止義務契約を締結すべきです。

 

5.競業避止義務契約が無効になるケース

ただし競業避止義務契約を締結しても、必ず有効になるとは限りません。

元従業員には「職業選択の自由」があるので、不当に侵害すると「公序良俗違反」として契約が無効になってしまう可能性があるのです。

 

裁判例では、以下のような事情を考慮して競業避止義務契約の有効性が判断されています。

 

  • 使用者側の正当な利益の保護を目的としているか
  • 元従業員の在職中の地位や職務内容
  • 地域的な限定
  • 競業避止義務の期間
  • 競業行為の範囲の限定
  • 代償措置の有無や内容

 

たとえば元従業員が役職のない平社員で在職中、特に重要な業務にも従事していなかったのに、エリアを限定せず無制限に競業を禁止すると無効と判断される可能性が高くなります。

競業避止義務が及ぶ年数としては6か月や1年程度であれば有効性が認められやすい傾向がありますが、2年を超えると無効と判断されるケースが多数です。

 

上記のほか、退職に至る経緯や背信性の強さ、転職可能性などが考慮されるケースもあります。

 

6.競業避止義務違反が発覚した場合の対処方法

競業避止義務違反が発覚すると、企業側は以下のような対応が可能です。

  • 退職金の減額や不支給
  • 競業行為の差し止め請求
  • 損害賠償請求

 

退職後の従業員に競業避止義務を課すため、退職時には競業避止義務契約を締結しましょう。

不動産の共有関係を解消する方法

2022-04-05

不動産を他の人と共有していると、自分一人の判断では自由に活用や売却ができません。

固定資産税や維持費用などの負担もかかってしまいます。

 

そこで「共有関係を解消したい」と考えた方からご相談をお受けするケースもよくあります。

 

今回は不動産の共有関係を解消するための「共有物分割請求」について、弁護士が解説します。

 

兄弟や親戚、第三者などと不動産を共有している方はぜひ参考にしてみてください。

 

 

1.共有関係を解消する方法

不動産の共有状態を解消するには、以下の5種類の方法があります。

 

1-1.他の共有者に買い取ってもらう

1つ目は他の共有者にこちらの持分を買い取ってもらう方法です。

物件の完全な所有者になりたい持分権者がいたら、交渉が成立する可能性があります。

1-2.他の共有者の持分を買い取る

2つ目は、自分が他の共有持分権者の持分を買い取る方法です。

すべての共有持分を買い取れば、物件の完全なオーナーになれます。

1-3.売却して現金で分ける

3つ目は、他の共有持分権者と協力して物件全体を売却する方法です。

売却金から経費を差し引いた残りの金額は、共有持分割合に応じてそれぞれの持分権者が分配します。

ただし共有持分権者全員が足並みをそろえなければならないので、非協力的な共有者がいるとうまくいきません。

1-4.分筆する

土地の場合、分筆してそれぞれの共有持分権者が分筆後の土地を取得できるケースもあります。

ただし建物は分筆できませんし、すべての土地を分筆できるわけでもありません。

 

1-5.共有持分のみを売却する

5つ目の方法は、自分の共有持分のみを売却する方法です。この方法であれば他の共有持分権者の協力は要りません。

ただ共有持分を買い取るのは専門の不動産買取業者くらいしかなく、そういった業者に売却すると価格が市場の半額程度になってしまうケースが多数です。

 

2.共有物分割請求の手順

法律上、共有物件を分割するには「共有物分割請求」をしなければなりません。

共有物分割請求をすると、現物分割(分筆)、代償分割(代償金を払って他の共有持分権者の持分を取得する)、換価分割(売却して現金で分ける)の3つの方法のいずれかによって物件を分けられます。

 

以下では共有物分割請求の手順をご説明します。

 

STEP1 話し合う

まずは他の共有持分権者と話し合いをしなければなりません

協議せずにいきなり訴訟を起こせないので、他の共有持分権者との関係が悪化していても何らかの協議をする必要があります。

相手の持分を買い取るかこちらの持分を売るか、あるいは売却して分けるのかなど、話し合いましょう。

 

STEP2 調停を申し立てる

直接の協議が難しい場合には、共有物分割調停を申し立てましょう。調停をすると、調停委員が間に入って話し合いを調整してくれます。相手と合意できれば調停が成立して、共有不動産を分割できます。

 

なお共有物分割請求において調停は必須ではありません。

当事者間で行う協議または調停のいずれかの手続きを踏めば、訴訟を申し立てられます。

もちろん協議が不成立になった後あらためて調停を利用しても問題はありません。

 

STEP3 訴訟を提起する

協議が整わない場合や調停が不成立になった場合には、共有物分割請求訴訟を申し立てる必要があります。

訴訟は話し合いの手続きではないので、裁判官が「現物分割」「代償分割」「換価分割」のうちいずれかの分割方法を決定します。

 

ただし訴訟では自分の希望通りの分割方法になるとは限りません。換価分割が選択されると、競売命令が出るので市場価格より安値でしか売れない可能性もあります。

また不動産鑑定が必要になると高額な費用もかかります。

訴訟を行う際にはこういったリスクも理解したうえで臨むべきといえるでしょう。

 

当事務所では不動産関係の案件に積極的に取り組んでいます。千葉県で共有不動産に悩まれている方はお気軽にご相談ください。

不動産の「共有」にともなうリスク

2022-03-29

不動産を共有していると、さまざまなリスクが発生します。

たとえば相続の際にはできるだけ共有にしないのが得策ですし、誰かと共有状態になっているなら早めに解消する措置をとるのがよいでしょう。

 

今回は不動産を共有しているとどういったリスクが発生するのか、ご説明します。

 

1人の持分権者が独占する

複数の人が共有している不動産でも、各共有持分権者は単独で土地や建物を使用できます。

1人が独占して使用しても法的な問題はありません。ただし他の共有持分権者の持分を使用しているので、使用料を払うべきです。

 

ところが相続物件などの場合、1人の相続人が従前から独占的に使用していても使用料を払わないケースが多々あります。すると他の共有持分権者が不満を抱いてトラブルになる可能性があります。

 

固定資産税や管理費用の清算でトラブル

不動産を所有していると、毎年固定資産税がかかります。

建物の管理や修繕にも費用がかかるでしょう。

共有不動産にかかる経費は、共有持分権者が持分割合に応じて負担すべきです。ところが共有持分権者同士のコミュニケーションがうまくとれていないと、税金や費用の清算がスムーズにできずにトラブルになってしまいます。

 

また1人の共有持分権者が固定資産税を立て替えたのに他の共有持分権者が払ってくれないので、1人に負担が集中してしまうトラブル事例もみられます。

 

活用や処分の方法で意見が合わずトラブル

共有不動産を「改良、利用」するためには過半数の共有持分権者による同意が必要です。

この場合の「過半数」は、共有持分権の割合によって算定します。人数ではないので注意しましょう。

 

たとえば建物のリフォーム、リノベーション、増改築の際には過半数の共有持分をもった持分権者が合意しなければ、計画を進められません。

 

また共有不動産に抵当権を設定したり売却したりするには、持分が小さい人も含めて共有持分権者「全員」の合意が必要です。老朽化した建物の解体についても同様で、1人でも反対する人がいると、処分ができません。

 

共有持分権者相互の関係が円滑でないと、活用や処分が難しくなってしまいます。

意見が合わずにトラブルになるケースも多いですし、他の共有持分権者と連絡をとりづらいので活用せずに物件を放置してしまうケースも多々あります。

 

相続が起こってトラブルに

共有持分権者が死亡して相続が発生すると、共有持分が細分化されてしまいます。

もともとの共有持分権者間では連絡を取れていても、相続が発生するとお互いに相手を知らず、コミュニケーションをとれなくなってしまうケースが少なくありません。

世代が変わると共有不動産の管理や処分はどんどん難しくなっていきます。

 

共有不動産のリスクを回避する方法

共有不動産のリスクを回避するには、以下のような方策をとりましょう。

そもそも共有にしない

共有状態になるきっかけとしては「相続」が非常に多数となっています。

共有を避けるため、相続の際には相続人同士の共有にせずに特定の相続人が単独で取得するように協議を行いましょう。

 

共有物分割請求をする

共有状態になってしまったら、他の相続人へ共有物分割請求を行えば解消できます。

たとえば自分の持分を相手に買い取るよう求めたり、相手の持分を買い取ったり、あるいは不動産を売却して現金を他の共有持分権者と分けたりします。

ただし話し合いで解決できなければ訴訟を起こさねばなりません。

 

共有持分を売却する

自分の共有持分のみを第三者へ売却する方法もあります。

ただし一般の個人は共有持分の買取に関心を示さないケースがほとんどで、売り先は主に専門の共有持分買取業者(不動産業者)となります。多くの場合、売却金額が市場価格の半額程度となってしまうので、経済的には損失となるでしょう。

 

共有物件についてお悩みがある場合、弁護士が共有関係解消や物件活用、他の共有持分権者との交渉などサポートいたします。千葉県で不動産トラブルにお困りの方がおられましたらお気軽にご相談ください。

【不動産】賃料増額請求の進め方

2022-03-22

貸している土地や建物の賃料が不相当に低くなっている場合、地主や大家は賃料増額を求められます。

 

ただ、手順を間違えると借主との間で大きなトラブルになってしまう可能性もあるので、法律の定める正しい方法で増額請求を進めましょう。

 

今回は賃料増額請求の進め方を弁護士が解説します。

 

借主と話し合う

賃料を増額してもらいたいなら、まずは借主と直接話し合うようおすすめします。相手に周辺の賃料相場を示して今の賃料が低すぎることを理解してもらえれば、任意に増額に応じてもらえる可能性もあります。

 

増額の合意ができたら、増額した賃料について定めた合意書を作成しましょう。

賃貸借契約書を作成し直してもかまいません。

 

賃料増額調停を申し立てる

当事者間の話し合いでは増額について合意できない場合には、裁判所で賃料増額調停を申し立てる必要があります。

相手が強固に賃料増額に反対していて調停が成立する余地がなくても、必ず調停を申し立てなければなりません。賃料増額請求には「調停前置主義」が適用されるからです。調停なしにいきなり訴訟を申し立てても受け付けてもらえないので注意しましょう。

 

なお協議段階をとばしていきなり調停を申し立てるのは自由です。

 

調停では、不動産鑑定士などの専門知識を持った人が調停委員として関与し、当事者の意見を調整してくれます。調停委員を介した話し合いとなるので、相手と直接話す必要はありません。調停委員から「どの程度増額すべきか」金額についても意見を言ってもらえるケースがあります。

 

当事者双方が賃料の増額や増額割合について納得したら、調停が成立し新たな賃料が適用されるので、増額された賃料を受け取れるようになります。調停調書には強制執行力もあるので、相手が従わない場合には差し押さえも可能です。

 

賃料増額訴訟を提起する

調停はあくまで話し合いによる解決手段なので、合意できなければ不成立となってしまいます。

 

それでも賃料の増額を求めたい場合には、賃料増額訴訟を提起しましょう。

訴訟では裁判所が賃料増額の必要性や増額幅を判断し、判決を下します。

借主が納得しなくても、賃料を増額すべき事情があれば裁判所が増額を認めてくれますし、いくら増額すべきかも裁判所が決定します。

 

ただし訴訟で増額を認めてもらうには、貸主側が以下のような事実を立証する必要があります。

  • 公租公課が上がり、現在の賃料が不相当に低くなっている
  • 近隣の相場と比べて現在の賃料が著しく低くなっている
  • 経済事情の変動により現状の賃料が不相当に低い状態である

 

また当事者の主張や立証資料だけでは不足するため、訴訟で判決が下される場合には「不動産鑑定」が行われるケースが多数です。鑑定が行われると、当事者が数十万円程度の鑑定費用を負担しなければなりません。

 

和解するケースも多い

賃料増額訴訟では途中で当事者が和解するケースもよくあります。

裁判官が貸主と借主の間に入って利害を調整し、両者が納得できる妥協点を見出します。

和解すれば早めにトラブルを解決できますし、鑑定を避けられるので余分な費用負担をせずにすむメリットもあります。

 

賃料が決まるまでの支払金額

貸主側が借主側へ賃料増額請求をしても、すぐに増額されるわけではありません。

調停や裁判をしている間に1年以上の時間が経つケースもあります。

 

借地借家法によると、借主は増額が確定するまでの間「自分が相当と考える賃料」を払えば済むと規定されています。たとえば従来通りの賃料が相当と考えるなら、従来通りの金額を支払っていれば遅延状態にはなりません。

 

ただし判決で増額が確定した場合には、不足分に年10%の利息をつけて貸主へ払う必要があります。

 

賃料増額請求をスムーズに進めるには弁護士によるサポートが必要です。当事務所では不動産オーナー様へのご支援に力を入れていますので、千葉県で不動産をお持ちの方がおられましたらお気軽にご相談ください。

【不動産】賃料増額請求が認められる要件とは?

2022-03-11

いったんは地代や建物の賃料を定めても、経済事情が変わって不相当に低くなってしまうケースが少なくありません。特に契約期間が長くなると、昔に定めた地代額は現在の相場と比べて極めて低額になっている事例が多数あります。

 

地代や家賃が低すぎる場合、地主や大家の方から借主へ「賃料増額請求」する権利が認められます。

今回は賃料増額請求が認められる要件や手続きの進め方について、弁護士が解説します。

 

賃料増額請求とは

賃料増額請求とは、地主や大家が借主に対し、賃料の増額を求めることです。

借地借家法により、一定の条件を満たせば地主にも大家にも賃料増額請求権が認められます。

貸主に賃料増額請求権が認められるのは、いったん地代や家賃を定めても、契約期間中に税額が上がったり景気の変動が起こったりして不相当になってしまうケースが多いためです。

特に長期にわたって賃貸借契約を継続している場合、昔に設定した賃料額が今の相場と比べて安すぎる状態になっている事例が多数みられます。

 

地代についての規定

借地借家法第11条 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

 

家賃についての規定

借地借家法第32条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

 

現在の賃料に納得できなければ、増額できないか検討してみましょう。

賃料増額請求が認められる要件

地主や大家側が「家賃が低すぎる」と考えても、常に賃料増額請求が認められるものではありません。借地借家法の条文によると、基本的に以下のような条件にあてはまれば増額請求が認められる可能性があります。

 

  • 固定資産税などの公租公課の負担が増えた
  • 土地や建物の価格が上昇したなど、経済事情が変動した
  • 近傍同種の土地や建物の賃料に比較して不相当に低額

 

ただし上記3つの事情は例示であり、すべてではありません。実際に裁判になると、上記以外にもさまざまな事情を総合考慮して相当な賃料が定められます。つまり、賃料を設定した当初とは事情が変わって現行の賃料が低額すぎる状態となり、当事者の公平に反する状態となっていれば増額請求が認められると理解しましょう。

 

賃料不増額特約がついている場合

賃貸借契約の締結時において、貸主と借主の間で賃料不増額特約をつけている場合があります。

賃料不増額特約とは、「大家(地主)の側から賃料の増額を求めない」とする特約です。

賃料不増額特約がついていると、貸主側からの賃料増額請求ができません(借主側からの賃料減額請求は可能です)。

 

「賃料が低いので増額してもらいたい」と考えたら、まずは契約書をみて「賃料不増額特約」の規定がないか、確認しましょう。

 

賃料増額請求は弁護士へご依頼ください

大家が直接借主へ賃料の増額を求めると、借主が拒否してトラブルになってしまうケースが少なくありません。弁護士が間に入って話を進める方がスムーズに増額の合意に至りやすいものです。

 

千葉県でも古くからの賃貸借契約で設定された賃料が低すぎる状態になっている事例が少なくありません。「賃料を増額してほしい」とお考えの大家さまがいらっしゃいましたら、お気軽に弁護士までご相談ください。

【企業・顧問】外注で業務委託契約を締結する際の注意点

2022-03-04

企業運営に際し、さまざまな業務を「外注」する場面があります。

商品や製品の開発、アプリやシステムの開発、デザインやホームページの制作など。

 

そんなときには「業務委託契約」を締結しなければなりません。

 

後にトラブルにならないよう、業務委託契約書を作成する際の注意点を弁護士がお伝えします。

 

 

1.業務委託契約とは

業務委託契約とは、外注者(委託者)が受注先(受託者)へ一定の業務を委託し、対価として報酬を支払う契約です。

 

以下のような際に業務委託契約を締結する例がよくあります。

  • コンサルティング
  • 商品や製品の開発
  • アプリやシステム開発
  • デザインやライティング、翻訳
  • ホームページの制作
  • SEO対策
  • システムの保守管理
  • 営業代行
  • 広告出稿代行
  • 建築設計監理の委託
  • 運送業務の委託
  • 社員研修の委託

 

社外の法人や個人に上記のような業務を外注する場合、業務委託契約書を作成すべきです。

契約書がなければ報酬の支払時期や成果物に対する権利、解約できる条件などが明らかにならずトラブルのもとになってしまいます。

 

2.業務委託契約書作成における注意点

業務委託契約書を作成する際には、以下のような点に注意しましょう。

2-1.契約目的と委託する業務の内容

まずは契約目的と委託する業務の内容を明らかにしましょう。特に業務内容については契約の核となる部分なので、できる限り明確にすべきです。

業務内容があいまいになっていると、受注者の裁量で業務を進められ、希望と異なるものが納品されてもクレーム言えなくなる可能性があります。

 

2-2.報酬の金額と支払時期

次に報酬の金額と支払時期を明確にしましょう。特に支払時期が不明確だとトラブルになりやすいので要注意です。

たとえば「納品されたタイミング(即時)」で払うのか「納品後2週間以内」とするのか「翌月末」とするのか、あるいは納品後検収期間をもうけるのかなど、相手と話し合って決定する必要があります。

 

2-3.納期

システム開発やデザインやライティング、翻訳などの「成果物の提出」を要する案件の場合、納期も定めておくべきです。納期が決まっていないと、いつまで経っても納品されず、発注企業側が不利益を受ける可能性があります。

 

2-4.契約期間

単発案件でない場合、契約期間も定めておくと良いでしょう。1年などとして、場合によっては自動更新条項をもうけましょう。

 

2-5.成果物に対する権利

成果物に対する権利が誰に帰属するのか、発注企業に帰属する場合にはいつのタイミングで権利が移転するのかなど、明確に記載しておきましょう。

たとえばデザインを外注した場合、基本的にはデザイナーに著作権が認められます。

納品と同時あるいは報酬支払と同時に著作権の譲渡を受けておかないと、企業側で自由な利用や改変ができません。

また著作権が問題になる場合には「著作者人格権を行使しない」ことも定めておくべきです。著作者人格権は譲渡できないので、行使しないと定めておかないと後に作品を活用できなくなる可能性があります。

 

2-6.秘密保持

業務を外注する場合、企業の内部機密を伝えなければならないケースも多く、外注先に秘密を漏えいされる可能性があります。

必ず秘密保持の条項を入れましょう。

ただし実際には業務委託契約書とは別途、秘密保持契約書を作成するケースが多数です。

 

2-7.再委託について

受注先が第三者に業務を再委託できるのか、できるとすればどういった条件下で認められるのかを記載しましょう。

再委託を認める場合には、「事前に発注者による書面(あるいは電子メール)による承諾を要する」と記載しておくと、無断で再委託されないので安心です。

また再委託先にも秘密保持の契約を締結させる必要があります。

 

2-8.解除と損害賠償

どういった場合に契約を解除できるのか、損害賠償ができる条件についても定めておきましょう。

 

当事務所では千葉県内の各企業様へ向けて法務アドバイスを積極的に行っています。企業法務に詳しい弁護士をお探しの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

【企業・顧問】従業員と秘密保持契約を締結すべき理由や注意点

2022-02-25

会社が従業員を雇い入れる際には「秘密保持契約」を締結すべきです。企業の機密情報が流出すると、多大な損失が発生するリスクが発生します。従業員を通じて秘密漏洩し、世間を揺るがす不祥事となってしまうケースも少なくありません。

 

千葉県内の各企業にも独自のノウハウや取引先・顧客リスト、個人情報などの機密情報が蓄積しているでしょう。秘密保持契約を締結し、貴重な情報を守る必要があります。

この記事では企業が従業員と秘密保持契約を締結すべき理由や注意点を、弁護士が法的な観点からお伝えします。

 

1.秘密保持契約とは

秘密保持契約とは、契約当事者が相手にわたす情報の漏洩を禁止し、他への流出を防ぐための契約です。業務を外注する場合や製造委託する場合、ホームページ制作業者、SEO業者を利用する場合、M&Aを行う場合などにも秘密保持契約を締結するケースがよくあります。

 

従業員も会社の重要な情報を知る立場にあるので、秘密保持契約を締結すべき対象です。

 

2.企業が従業員と秘密保持契約を締結すべき理由

従業員は会社の重要な情報にアクセスできる立場にあります。

  • 取引先や顧客のリスト
  • 社内の従業員の個人情報
  • 自社のノウハウ
  • 製品開発情報

 

こういった情報を外部に漏洩されると、会社としては大きな損失を受けます。個人情報保護法違反の責任を問われるリスクも発生し、信用問題にも発展するでしょう。

 

秘密保持契約を締結しておけば、漏洩が禁止されるので、会社の機密情報を守りやすくなります。

万一従業員が違反して漏洩してしまった場合にも、世間や被害者に対し「会社としてできうる限りの適切な措置を行っていた」と説明しやすくなります。

 

企業にとって従業員との秘密保持契約締結は必須です。

3.秘密保持契約を締結する従業員の範囲

秘密保持契約は、可能な限りすべての従業員と締結すべきです。役職つきの人材や特殊スキルをもった人材だけではなく、平社員や新入社員などの従業員にも秘密を守らせる必要があります。

 

また正社員だけではなく、パートやアルバイトなどの非正規雇用者も会社の情報にアクセス可能です。SNSでアルバイト店員が行った投稿が原因で企業が損害を受ける事件も発生しているので、アルバイトやパートの従業員とも秘密保持契約を締結しましょう。

 

4.秘密保持契約書に盛り込むべき内容

4-1.秘密情報の定義や範囲

まずはどういった情報を「秘密情報」とするのか規定しましょう。

秘密情報の範囲を限定しすぎると「これは秘密情報にならない」といわれる可能性があるので「その他上記に準じる情報」などと包括的に定義しておくとよいでしょう。

 

秘密情報については、開示してはならないことを定め、第三者への漏洩を禁止します。

 

4-2.例外的に開示可能な場合

すでに知られている情報、法令によって開示しなければならない場合など、例外的に開示できる場合を定めます。

 

4-3.利用制限

秘密情報の目的外利用を禁止する条項です。不適切な複製行為も禁止しましょう。

 

4-4.損害賠償

秘密保持義務に反して従業員が情報漏えいした場合、企業側が損害賠償請求できることを定めます。

 

4-5.秘密情報の返還

雇用契約が終了したら、速やかに情報を返還する約束をします。

 

4-6. 有効期間

雇用契約の終了後も一定期間、秘密保持契約の効力を存続させることも可能です。

 

5.秘密保持契約書を締結するタイミング

秘密保持契約は、基本的に「雇用時(入社時)に締結しましょう。

新入社員であってもすぐにパソコンやタブレットから情報データベースへアクセスできるケースが多いですし、事業所内の書類も閲覧できるからです。

また秘密保持契約締結を入社の条件としておけば、労せず秘密保持契約を締結させられます。いったん雇用した後に秘密保持契約を要求すると、相手が拒否したときに強要できないリスクが発生します。

 

6.従業員の労務管理は弁護士へ相談を

従業員の労務管理においては、労働時間や解雇問題、秘密保持などさまざまな場面で法的に適切な対応を要求されます。千葉県で労務管理に詳しい弁護士をお探しの企業がありましたら、お気軽に弁護士までご相談ください。

【企業・顧問】副業禁止は違法?裁判例や副業解禁のメリット、デメリットを弁護士が解説

2022-02-09

日本では従来、副業を禁止する企業が大多数でした。しかし近年では働き方改革の影響もあって、副業解禁の動きが加速しています。

 

就業規則で副業を禁止して懲戒すると「違法」になる可能性もあります。

今回は副業禁止規定にもとづく懲戒解雇が違法とされた裁判例を交えながら、副業を解禁するメリットやデメリットを弁護士が解説します。

 

1.副業を認めるかどうかは企業の自由

従業員に副業を認めるかどうかは、基本的に企業側の自由です。

確かに副業を認めると、本業への支障が及んだり労働時間の把握が難しくなったりする可能性があり、副業を制限する合理性も認められます。副業を禁止しても、必ずしも違法ではありません。

 

ただし最近では「働き方改革」のスローガンのもと政府の方針も転換され、副業を解禁する動きが目立ってきています。

 

2.副業禁止規定にもとづく懲戒解雇が違法になるケース

副業禁止は基本的に違法ではありませんが、副業禁止規定にもとづいて懲戒処分を行うと違法になってしまう可能性があります。

副業が本業に支障を及ぼしておらず、他にも会社に損害やリスクを発生させていないのに懲戒解雇する合理的な理由がないと考えられるためです。

 

2-1.副業禁止規定にもとづく解雇が無効とされた裁判例

副業禁止規定にもとづく懲戒解雇が違法と判断された裁判例を示します。

 

十和田運輸事件(東京地判平成13年6月5日)

運送会社のドライバーが年に1、2回程度、他社で貨物運送のアルバイトを行った事案です。会社は兼業禁止規定に基づいて懲戒解雇しました。

裁判所は、従業員が職務専念義務に違反しておらず勤務先との信頼関係を破壊したとまでいえないとして、解雇無効と判断しました。

 

2-2.副業禁止規定が違法と判断されやすい要素

副業禁止による懲戒解雇が違法になりやすいのは、以下のような場合です。

  • 本業に対する影響がない、ほとんどない
  • 副業の内容は本業と無関係で、競業の可能性がない
  • 副業の規模が小さい
  • 勤務先の信用やブランドが毀損されるおそれがない

 

一方、従業員が競業によって企業に迷惑をかけた場合、信用やブランドを毀損した場合、本業をおろそかにした場合、情報を漏洩した場合などには懲戒解雇が認められる可能性も高くなります。

 

3.副業解禁のメリット

3-1.労働者のスキルアップ

従業員が副業をすると、新たな知識や経験を身につけられるのでスキルアップにつながります。副業で身につけたスキルを本業に活かせれば企業にとっても強い戦力となり、メリットを得られます。

 

3-2.人材確保

副業を認めると「自由に働ける職場」と評価されて優秀な人材が集まりやすくなります。

はたらきやすい職場であれば、人材が定着しやすく戦力確保にもつながるでしょう。

 

3-3.事業拡大のチャンス

従業員が副業で獲得した人脈や情報、スキルを企業が積極的に活用すると、他企業や団体と関わりができて取引につながったり、共同で技術開発したりして、事業拡大の機会になる可能性もあります。

 

4.副業解禁のデメリット

4-1.本業がおろそかになる

本業の最中に副業のメールチェックや返信などの作業を行う人もいますし、本業が休みの際にアルバイトなどをして疲れが溜まったり睡眠不足になったりする人もいます。

本業に支障をきたし、生産性が低下してしまうリスクが発生します。

副業を解禁するなら、本業に支障の及ばない方法を検討し、従業員と会社がお互いに確認しておいた方がよいでしょう。

 

4-2.情報流出のリスク

従業員が副業の際に勤務先企業の情報を漏らしてしまうリスクも発生します。

副業を解禁するなら、情報取扱い方法についてしっかり取り決めておくべきといえるでしょう。

 

4-3.信用毀損リスク

従業員が副業の遂行に際して違法行為を行ったり不用意な発言をしたりして、企業の信用が害される可能性もあります。企業側が副業を解禁するなら、従業員の情報発信方法についても確認しておきましょう。

 

企業が副業を解禁するなら、リスクを軽減するためのルールを取り決めておくと安心です。労務管理に関してお悩みがある方は、お気軽に弁護士までご相談ください。

【企業・顧問】有給休暇の時季変更権の運用方法

2022-02-02

従業員から有給休暇取得の申請があったとき、企業側は拒絶できません。

ただし「時季変更権」を行使して有給の取得時期をずらすことは可能です。

 

時季変更権の行使方法によっては違法と判断された事例もあるので、正しい知識を持って対応しましょう。

 

この記事では有給休暇の時季変更権の行使や運用の方法について、判例も交えて解説します。

 

1.時季変更権とは

時季変更権とは、従業員による年次有給休暇の申請に対し、企業側が取得日の変更を求める権利です。

 

労働基準法第39条5項

請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる

 

有給休暇の取得は労働者の権利なので、会社側が断ることは許されません。ただ業務に著しい支障を生じる場合もあるので、取得日を変更する権利が企業側に認められているのです。

 

2.時季変更権が認められる条件

時季変更権が認められるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」のみです。そういった危険がないのに、企業側の都合で従業員に対して有給取得時期をずらすよう求めると、違法とされる可能性があります。

 

時季変更権が認められやすいのは、以下のような場合です。

  • 有給休暇の取得希望日が繁忙期と重なる場合
  • 有給休暇の取得希望日が集合研修の予定日と重なる場合
  • 長期に渡って連続する有給休暇の申請

 

ただし繁忙期なら必ず時季変更が認められるとは限らず、個別的な事情も考慮されて判断されます。

 

3.時季変更権が認められた場合の効果

会社側が適法に時季変更権を行使すると、有給休暇の取得時期がずらされます。従業員が出勤日に出社拒否したら「欠勤」扱いとして賃金を控除できますし、状況によっては懲戒処分も検討できます。

 

ただし従業員側が「賃金控除や懲戒処分は不当」と主張してトラブルになるケースもあるので、これらの処分を課すときには慎重になるべきです。

 

4.時季変更権に関する裁判例

4-1.繁忙期の時季変更が適法とされた裁判例

夏季の繁忙期に有給休暇の取得者が多数発生し、企業側が業務に対応できないために時季変更権を行使したケース(前橋地方裁判所高崎支部判決平成11年3月11日)。

 

 

4-2.譴責の懲戒処分が適法となった裁判例

集合研修期間に有給休暇の申請があったため会社が時季変更権を行使すると、従業員が欠席したので、企業側は欠勤控除を行って「譴責」の懲戒処分をしました。

裁判所は企業側の対応を適法と判断しました(東京高等裁判所判決平成13年11月28日)。

 

 

4-3.懲戒解雇を適法としたもの

記者が約1か月間にわたる長期の有給休暇を申請し、会社が時季変更権を行使すると出社しなかったケースです。企業側が従業員を懲戒解雇したところ、裁判所は懲戒解雇を有効と判断しました(東京高等裁判所平成11年7月19日判決)。

 

 

 

4-4.時季変更が違法とされた裁判例

従業員が繁忙期に短時間の有給休暇を申請したケース。裁判所は、期間が短く代替勤務者がいなくても業務に支障がでないと判断し、時季変更を認めませんでした(東京地方裁判所判決平成5年12月8日)。

 

繁忙期であっても、有給休暇取得によってどういった支障が出るのか明らかでない場合や代替勤務者を確保できる場合には、時季変更権が違法とされる可能性が高くなります。

 

5.時季変更権行使のタイミングと行使方法

時季変更権は、従業員から有給休暇取得の申請を受けた直後に行使すべきです。

たとえば2か月前に有給休暇を申請されたのに、予定日の1日前になって時季変更権を行使すると、違法とされる可能性が高いでしょう。申請を受けたら速やかに検討し、変更の必要があるなら従業員へ通知してください。

 

時期変更の通知を行う際には書面を作成し、理由をそえて別の日に有給休暇を取得するよう求めましょう。書面通知を送るだけではなく従業員と直接話し、十分に説明をして理解を求めることも重要です。

代替日については提案しても構いませんが、企業側が時季変更権の行使に際し代替日を提案する義務はありません。

 

当事務所では労務管理のアドバイスやサポートに力を入れています。千葉で労働問題に詳しい弁護士をお探しの事業者さまがおられましたらお気軽にご相談ください。

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