遺産を相続するか放棄するかは、定められた期間に決定しなければなりません。しかし、相続財産の範囲を把握しなければ、その決定は下しにくいと思います。
今回は、どのようなものが相続財産に含まれるのか、どのようなものが相続財産に含まれないのかについて、ご説明します。
相続財産とは
民法896条本文には以下のように規定されています。
「相続人は、相続開始のときから、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」
このことからわかるように相続人は、被相続人の権利とともに義務も承継することになっています。それはつまり、被相続人が所有していた土地や現金などの「プラスの財産」と一緒に被相続人が負っていた借金・債務などの「マイナスの財産」も相続するということです。
相続は被相続人が死亡した時点で開始され、手続がなくても、遺産はその時点で相続人に承継されます。
積極財産
「プラスの財産」は、積極財産と呼ばれます。
- 不動産(土地・建物・立木)
海外にあるものも含まれます。
- 動産
自動車・家財道具・コレクション品等
- 現金・預貯金
- 有価証券など
株式、投資信託、国債や地方債、施設などの会員権
但し、会員権の場合は、会員規約に「会員が死亡の場合、会員権は失効」などと規定されていれば承継できません。
- 借地権・借家権
なお、使用借権は、被相続人が亡くなると消滅してしまいますので承継できません(民法599条)。
- その他
知的財産権なども積極財産として承継されます。
消極財産
被相続人が負っていた借金などの「マイナスの財産」が消極財産です。これらのものもすべて承継されます。
- 債務
銀行や消費者金融からの借入れといったいわゆる借金はもちろん、クレジットカードで購入した商品の支払いや、未払いになっている賃料、固定資産税や住民税などの滞納分の支払義務も相続人に継承されます。
- 保証債務
通常の保証債務は、相続人に継承されます。
人的信用関係を基礎とする信用保証(根保証など)や身元保証は継承されないものとされています。
相続財産に含まれないもの
前述のとおり、相続が開始すると、被相続人の財産に属した一切の権利義務は、相続人がすべて承継するのが原則ですが、相続財産に属さない財産・権利も存在します。
- 一身専属権
冒頭の民法第896条但書には、以下のように規定されています。
「ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」
一身専属権とは、その性質上、特定の人にだけ帰属する権利、特定の人だけが行使できる権利です。
例えば、生活保護法に基づく保護受給権や、年金請求権、財産分与請求権、扶養請求権などです。但し、既に履行期を経過して具体的な請求権となっていた場合には、一般の金銭債権と変わらないため、相続の対象となります。
また、作家や画家が作品を作る債務などの交代が効かない債務のような一身専属義務も相続されません。
- 墓・位牌・仏壇などの祭祀財産
祭祀財産は、祖先の祭祀の主宰者が継承することになりますので(民法897条)、相続財産には含まれません。
- 遺骨
遺骨も祭祀の主宰者に帰属するため、相続財産には含まれません。
- 香典
香典は、祭祀主宰者への贈与と考えられるため、相続財産には含まれません。
- 身分上の権利
身分上の地位や権利などは相続財産に含まれません。被相続人が婚約していた場合の「婚約者」としての地位などがこれにあたります。婚約者の立場が継承されることはありません。
相続が開始された際、3か月以内に相続放棄をするか否か検討する前提として、相続財産の中にどの程度の消極財産があるのかを確認することはもちろんですが、そもそも何が相続財産なのか、何が相続財産ではないのかを知っておく必要があります。特に祭祀財産は、相続放棄しても祭祀の主宰者であれば継承することができるということを知っておいてください。