Archive for the ‘相続問題コラム’ Category

【相続】相続トラブルになりやすいパターン

2020-12-25

「相続トラブル」と聞くと、「一部の富裕層の家庭で起こるもの」というイメージがあります。しかし現実には、多くのトラブルは一般の中流家庭で起こっています。

 

親の生前は仲の良かった子ども達でも、親の死後に熾烈な相続争いを繰り広げるケースが少なくありません。

 

今回は相続トラブルになりやすい「要注意」のパターンをご紹介します。対処方法もお伝えしますので、是非参考にしてみてください。

 

1.遺産が「実家不動産」のみ

遺された遺産が「実家の土地建物だけ」の場合、親としては「こんな少しの遺産なのでトラブルにならないだろう」と考えるでしょう。

しかし現実には、このパターンが非常に危険です。

 

実家の不動産しか遺産がないと、子ども達が「公平に遺産分割する」ことが困難となります。

実家を維持したい子ども、実家を売って分けたい子ども、実家は要らないので代償金を払ってほしい子どもなど、いろんな意見があって合意できなくなってしまうのです。

 

実家しか遺産がないなら、必ず誰に家を残すのか、代償金をいくらとするのかなど遺言書によって明らかにしておきましょう。

 

2.前婚の子どもがいる

再婚している方も、遺産相続で要注意です。前婚の際に生まれた子どもにも、今の家族の子どもと同様に遺産相続権が認められるためです。

今の家族の子どもや配偶者は、前婚の子どもに遺産を渡したくないと考えるでしょう。しかし法的には前婚の子どもにも権利があるので、意見が合わずにトラブルにつながります。

 

再婚している方は、必ず遺言書で今の家族に多めに遺産を遺すなど、相続方法を指定しておきましょう。

 

3.不公平な遺言書

遺言すれば相続トラブルを避けられる、というものでもありません。

遺言書がトラブルの種になるケースがあるので注意しましょう。

「特定の相続人にすべて相続させる」などの不公平な遺言があると、相続できなくなった相続人が「遺留分」を主張する可能性があります。すると、遺留分を侵害された相続人が遺留分を侵害した人へ「遺留分侵害額請求」という金銭の要求をして、トラブルにつながってしまいます。

遺言書を書くときには、相続人の遺留分を侵害しないよう配慮しなければなりません。

 

 

3.生前贈与した

高額な生前贈与を行った場合にも、トラブルが発生します。

たとえば長女が結婚するときに高額な持参金を出した場合を考えてみましょう。

こういった場合には、遺産分割の際、長女がもらった持参金を「遺産の先渡し」として差引計算ができます。これを「特別受益の持ち戻し計算」といいます。

ただ、「本当に特別受益になるのか」「特別受益の金額はどのくらいが妥当か」など、相続人間で意見が合わずトラブルになってしまうケースが少なくありません。

 

特別受益の持ち戻し計算は、遺言書などの方法で免除できます。相続トラブルを避けたいなら、特別受益の持ち戻し計算を免除しておくか、特別受益を考慮した内容の遺言書を書いておくと良いでしょう。

 

4.献身的に介護した相続人がいる

献身的に被相続人を介護した相続人がいる場合にも、トラブルになりやすい傾向があります。献身的に介護をすると、その相続人には「寄与分」が認められる可能性があるからです。寄与分が認められると、その相続人の遺産取得分が増額されます。

ただ、他の相続人は寄与を認めなかったり、金額を低く見積もったりするので意見がまとまらなくなってしまうのです。

寄与分が認められそうな相続人がいる場合にも、やはり遺言書できっちり相続方法を指定しておきましょう。

 

5.遺言書作成、相続トラブル予防は弁護士へお任せを

遺産相続トラブルを防ぐには、遺言書が有効です。ただ遺言書にもいろいろな方式があり、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言、それぞれ特徴やメリット・デメリットがあります。

内容面にも配慮しなければならないので、素人判断では遺言書がトラブルの種になるリスクも懸念されるでしょう。

弁護士が相続トラブル予防・解決支援をいたします。心配な方はお早めにご相談ください。

【相続】遺産相続の流れと期限を解説

2020-12-15

遺産相続が発生したら、やるべきことが非常にたくさんあります。

期限のある手続きも多いので、段取りよく進めていきましょう。

今回は遺産相続の流れを、それぞれの期限も含めてご紹介します。相続して対応に迷っている方は、ぜひ参考にしてみてください。

 

1.死亡から7日以内にすべき手続き

人が死亡したら、7日以内に死亡届を提出しなければなりません。

死亡届を提出すると、引換に「火葬許可証」を交付してもらえます。

葬儀社などと協議して、お葬式や火葬を行いましょう。

 

2.死亡から14日以内にすべき手続き

死亡後14日以内に、以下の手続きをする必要があります。

  • 健康保険、介護保険の資格喪失届
  • 国民年金受給停止の手続き(ただし厚生年金の場合は死亡後10日以内)
  • 世帯主変更届

 

3.遺言書を探す

次に遺言書を探しましょう。遺言書があれば、指定された方法で相続を行う必要があり、遺産分割協議は不要となります。公正証書遺言は公証役場で検索してもらえるので、心当たりがあれば公証役場を訪ねましょう。

自筆証書遺言が法務局で保管されている場合には、法務局で調べられます。

遺言書の検認

自筆証書遺言が自宅で保管されていた場合や秘密証書遺言の場合、家庭裁判所で「遺言書の検認」を受けなければなりません。

 

4.相続人調査

次に相続人調査をしましょう。相続人が明らかにならないと、誰が遺産を受け取るべきか定まりません。

家族関係が簡単で相続人が明確な場合でも相続人調査が必要です。

被相続人の生まれてから死亡するまでの戸籍謄本類を取得して、実子や養子、認知した子どもの有無なども含めて確認してください。

 

5.相続財産調査

遺産を分ける前提として相続財産内容も知る必要があります。

預貯金、株式、不動産、出資金、貴金属などの財産を調べましょう。

 

6.3ヶ月以内に相続放棄や限定承認

相続放棄や限定承認をする場合、被相続人が死亡してから3ヶ月以内に家庭裁判所で申述しなければなりません。

借金を相続してしまった場合などには、急いでこれらの手続きを利用するかしないか決定しましょう。

 

7.4ヶ月以内に準確定申告

被相続人が事業主だった場合などには、相続人が代わりに「確定申告」をしなければなりません。これを「準確定申告」といいます。

相続開始後4ヶ月以内に税務署で手続きしなければならないので、注意しましょう。

 

8.遺産分割

相続人と相続財産が明らかになったら、遺産分割協議を行います。

遺産分割協議には、相続人が全員参加しなければなりません。

相続財産の具体的な分け方を決めて「遺産分割協議書」を作成しましょう。

 

9.10か月以内に相続税の申告と納税

相続財産の評価額が相続税の「基礎控除」を超えている場合、相続税の申告と納税が必要です。期限は相続開始後10ヶ月とされているので、急いで手続きしましょう。

 

10.名義変更などの相続手続き

遺産分割が終了したら、速やかに不動産の名義変更などの相続手続きをしましょう。

名義変更せずに放っておくと混乱のもとになるので、早めに対応するようお勧めします。

 

11.1年以内に遺留分侵害額請求

不公平な遺言書が遺された場合や高額な生前贈与があった場合などには、兄弟姉妹以外の法定相続人は「遺留分侵害額請求」できる可能性があります。遺留分侵害額請求とは、最低限の遺産取得割合である「遺留分」をお金で取り戻す手続き。遺言や生前贈与で「遺留分」を侵害されたら、侵害した人へ「遺留分」に相当する金額のお金を要求できます。

遺留分侵害額請求は相続開始後1年以内に行わねばならないので、納得できないなら早めに手続きしましょう。

 

12.3年以内に生命保険の受け取り

被相続人の死亡によって生命保険金が支払われる場合、死亡後3年以内に手続きしなければなりません。できれば死亡後すぐに申請するのがベストですが、遅れた場合でも必ず3年以内には申請しましょう。

 

相続人になると、たくさんやるべきことがあって対応に迷ってしまうでしょう。困ったときやトラブルになりそうなときには、お気軽に弁護士までご相談ください。

【相続】遺産相続とはどう違うの? 「生前贈与」のメリットとは

2020-11-12

「生きているうちに、財産を分け与えたい」と考える方も少なくないでしょう。

生きているうちに、配偶者や血縁者などに財産を分け与えることを「生前贈与」と言います。

生前贈与は相続財産を減らして相続税を抑えることができますが、一方で贈与税がかかる場合もあります。ここでは生前贈与の条件やメリットについてご紹介します。

 

生前贈与とは?

生前贈与とは、自分が亡くなる前に自分の財産を人に分け与える行為を指します。

一般的に生前贈与は「将来負担することになる相続税を抑えたい」という動機で行われるケースが多いようです。

遺産分割においては、相続人の中に生前贈与を受けた人がある場合には、その人に対する相続分の前渡しとみて、計算上は相続財産に加算した上で各相続人の相続分を算定することになります。このように扱われる生前贈与のことを「特別受益」と言います。

なお、全ての生前贈与が特別受益となる訳ではありません。被相続人から特定の相続人に対して、“婚姻”や“養子縁組”のため、あるいは“生計の資本”としての贈与があった場合に、特別受益として扱われることになります(民法903条)。

 

生前贈与の注意点

前述のとおり、財産の一部を生前贈与すると、遺産分割の際には特別受益として扱われる場合があります。

特別受益となる場合、この金額は、計算上相続財産に加算し、その上で各相続人の相続分が算定されることになります。これを特別受益の持戻しと言います。

例えば、本人(被相続人)、配偶者と息子A・息子Bの4人家族で、本人が息子Aに生計の資本として200万円を生前贈与していたとします。

本人が亡くなった後、遺産が1000万円あった場合、遺産分割の際には先の生前贈与200万円を特別受益として1000万円に加算し、その上で平等になるよう各相続分を算定します。具体的な相続分は、配偶者が600万円、息子Aが100万円、息子Bが300万円となります。

 (計算)

みなし相続財産 遺産1000万円+特別受益200万円=1200万円

 各相続人の具体的相続分

 配偶者 1200万円×1/2=600万円

 息子A 1200万円×1/2×1/2-200万円=100万円

 息子B 1200万円×1/2×1/2=300万円

 

本人(被相続人)が、将来の自分の遺産分割において特別受益の持戻しを望まない場合には、「持戻し免除の意思表示」をしておく必要があります。

 

 

生前贈与のメリット

生前贈与は、主に相続税対策という点でメリットがあります。この点につきましては、相続税に詳しい税理士さんにご相談されることをお勧めします(当事務所からご紹介することも可能です。)。

但し、生前贈与のメリットは、あくまで税法上のメリットです。税法上控除を受けられるからといって、遺産分割の際にも生前贈与を考慮しなくて良いということにはなりません。

あくまで遺産分割においては、特別受益に該当する生前贈与は相続財産に持ち戻して相続分を算定することになりますのでご注意ください。

 

生前贈与を行う場合は、贈与の方法や課税対象となる金額に注意が必要です。また贈与を受ける側のライフプランなどに合わせて、計画的に生前贈与をしましょう。

生前贈与には、条件や税金など細かい規定があるため、専門家に相談するようにしましょう。

【相続】相続開始から3か月以上経過してからの相続放棄

2020-07-14

事例

前回の事例の続きになります。

Yさんは、6年前に亡くなった伯母さんの相続人として、市原市にある亡伯母さん名義の固定資産税を支払わなければならないことになってしまいました。建物は老朽化しており、Yさんとしては、建物を相続するつもりはなく、滞納している固定資産税も支払いたくはありません。

しかし、Yさんは「相続放棄は3か月以内にしなければならない」と聞いたことがあり、伯母さんが亡くなってから既に6年も経ってしまっているため相続放棄できないのではないかと不安になりました。

 

回答

相続放棄は、相続開始(被相続人の死亡)から3か月以上経ってもできる場合があります。

相続の承認または放棄をすべき期間について、民法第915条第1項は「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三個月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」と規定しています。

 

本件は「自己のために相続の開始があったことを知った時」に該当するか否かの問題であり、判例は「相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り、かつそのために自己が相続人となったことを覚知した時を指す」(大決大15.8.3民集5-679)という基準を示しています。

 

Yさんは、6年前に伯母さんが亡くなったのは知っていましたが、従兄弟が伯母さんの養子だったことも、伯母さんと離縁していたことも知らず、伯母さんの相続人は従兄弟だと思っていました。Yさんにとって「相続開始の原因たる事実の発生」すなわち伯母さんが亡くなった事実を知っただけでは「自己のために相続の開始があったことを知った」ことにはなりません。Yさんが、従兄弟は伯母さんの相続人ではないという事実を知ってはじめて「自己が相続人となったことを覚知した」ことになります。

よって、Yさんが、従兄弟は伯母さんの相続人ではないこと、すなわち伯母さんの相続人はYさん自身だということを知ってから3か月以内に相続放棄の手続をすればまだ間に合います。

当事務所において相続放棄の手続をし、無事、Yさんは固定資産税を支払わなくて良いことになりました。

 

相続放棄の手続について

被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で手続します。

相続放棄の申述書を作成し、

①被相続人の除籍謄本
②被相続人の住民票除票又は戸籍の附票
③放棄する人の戸籍謄本
④被相続人と放棄する人との関係が分かる戸籍謄本(①③で分かれば不要)

と一緒に家庭裁判所に提出します。印紙800円と指定された券種の郵便切手も納付します。

申述書には「相続の開始を知った日」「放棄の理由」「相続財産の概略(資産・負債)」を記載します。

申述書を提出してからおよそ1か月で家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。さらに「相続放棄申述受理証明書」を希望する場合には、家庭裁判所に印紙150円を納付して発行を受けることができます。

【相続】他の相続人が相続放棄しているか否かの調査方法

2020-07-07

<事例>

Yさんは、ある日突然、市原市役所から手紙を受け取りました。手紙には、6年前に亡くなった伯母さん名義の建物の固定資産税を納付するよう書いてありました。伯母さんが亡くなってからずっと固定資産税の滞納が続いているようです。
Yさんの亡くなった両親と伯母さんとは不仲であったため、Yさんも生前の伯母さんとは全く交流がありませんでした。伯母さんには子供(Yさんの従兄弟)が1人いたはずであり、Yさんとしては伯母さんの相続人でも何でもないので支払う必要はないと思っています。しかし、役所からの手紙でもあるので心配になり、市役所の窓口に行って聞いてみたのですが、詳しいことは「個人情報」を理由に教えてくれません。そこで、弁護士に相談することにしました。

<回答>

Yさんは伯母さんの相続人になっている可能性があります。Yさんが考えているとおり、本来伯母さんの相続人は伯母さんの子供でありYさんではありません。しかし、市役所が相続人の調査をしないままYさんに手紙を送って来たとは考えられません。考えられるのは、伯母さんの子供は相続放棄をしており、その結果Yさんが相続人となったのではないかということです。そこで、伯母さんの子供が相続放棄をしているか否かを調査する必要があります。

相続放棄の調査方法

相続人が相続放棄をしているか否かは、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に照会することによって調べることができます。照会手数料は無料です。

「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会申請書」と「被相続人等目録」を作成し、
①被相続人の住民票除票(本籍地が表示されているもの)
②照会者と被相続人との関係がわかる戸籍謄本
③照会者の住民票(本籍地が表示されているもの)
④相続関係図
と一緒に家庭裁判所に提出します。返信用封筒と返信用切手を一緒に提出すれば郵送で回答してもらえます。
「被相続人等目録」には被相続人の本籍・最後の住所地・氏名・死亡日と,照会したい相続人の氏名を記載します。
申請をしてからおよそ1か月以内には家庭裁判所から回答が届きます。

<解決>

当事務所は、Yさんから相続放棄の有無の照会手続の依頼を受け、被相続人の最後の住所地である市原市を管轄する千葉家庭裁判所に照会をする予定で準備を開始しました。ところが、被相続人(伯母さん)の除籍謄本を確認したところ、新事実が判明しました。
Yさんが伯母さんの実子だと思っていた従兄弟は、実は伯母さんの養子であり、生前伯母さんは養子縁組を解消していたことが判明したのです。市原市役所がYさんから詳しい事情を聴かれても回答しなかったのは、亡伯母さんと従兄弟の養子縁組解消の事実を「個人情報」と判断したためだったのでしょう。

本件では、伯母さんと養子が離縁していたため、伯母さんの相続人はYさんで間違いなく、Yさんは亡伯母さん名義の建物の固定資産税を支払わなければならないということになります。
なお、実際には、その後、当事務所において、Yさんは伯母さんの遺産に対する相続放棄の手続をしましたので、固定資産税は支払わずに済みました(相続開始から3か月以上経過してからの相続放棄)。

【相続】「相続財産」に含まれるもの、含まれないもの

2020-03-09

遺産を相続するか放棄するかは、定められた期間に決定しなければなりません。しかし、相続財産の範囲を把握しなければ、その決定は下しにくいと思います。
今回は、どのようなものが相続財産に含まれるのか、どのようなものが相続財産に含まれないのかについて、ご説明します。

相続財産とは

民法896条本文には以下のように規定されています。

「相続人は、相続開始のときから、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」

このことからわかるように相続人は、被相続人の権利とともに義務も承継することになっています。それはつまり、被相続人が所有していた土地や現金などの「プラスの財産」と一緒に被相続人が負っていた借金・債務などの「マイナスの財産」も相続するということです。
相続は被相続人が死亡した時点で開始され、手続がなくても、遺産はその時点で相続人に承継されます。

積極財産

「プラスの財産」は、積極財産と呼ばれます。

  • 不動産(土地・建物・立木)

海外にあるものも含まれます。

  • 動産

自動車・家財道具・コレクション品等

  • 現金・預貯金
  • 有価証券など

株式、投資信託、国債や地方債、施設などの会員権

但し、会員権の場合は、会員規約に「会員が死亡の場合、会員権は失効」などと規定されていれば承継できません。

  • 借地権・借家権

なお、使用借権は、被相続人が亡くなると消滅してしまいますので承継できません(民法599条)。

  • その他

  知的財産権なども積極財産として承継されます。

消極財産

被相続人が負っていた借金などの「マイナスの財産」が消極財産です。これらのものもすべて承継されます。

  • 債務

銀行や消費者金融からの借入れといったいわゆる借金はもちろん、クレジットカードで購入した商品の支払いや、未払いになっている賃料、固定資産税や住民税などの滞納分の支払義務も相続人に継承されます。

  • 保証債務

通常の保証債務は、相続人に継承されます。

人的信用関係を基礎とする信用保証(根保証など)や身元保証は継承されないものとされています。

相続財産に含まれないもの

前述のとおり、相続が開始すると、被相続人の財産に属した一切の権利義務は、相続人がすべて承継するのが原則ですが、相続財産に属さない財産・権利も存在します。

  • 一身専属権

冒頭の民法第896条但書には、以下のように規定されています。

「ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」

一身専属権とは、その性質上、特定の人にだけ帰属する権利、特定の人だけが行使できる権利です。

例えば、生活保護法に基づく保護受給権や、年金請求権、財産分与請求権、扶養請求権などです。但し、既に履行期を経過して具体的な請求権となっていた場合には、一般の金銭債権と変わらないため、相続の対象となります。

また、作家や画家が作品を作る債務などの交代が効かない債務のような一身専属義務も相続されません。

  • 墓・位牌・仏壇などの祭祀財産

祭祀財産は、祖先の祭祀の主宰者が継承することになりますので(民法897条)、相続財産には含まれません。

  • 遺骨

遺骨も祭祀の主宰者に帰属するため、相続財産には含まれません。

  • 香典

香典は、祭祀主宰者への贈与と考えられるため、相続財産には含まれません。

  • 身分上の権利

身分上の地位や権利などは相続財産に含まれません。被相続人が婚約していた場合の「婚約者」としての地位などがこれにあたります。婚約者の立場が継承されることはありません。

 

相続が開始された際、3か月以内に相続放棄をするか否か検討する前提として、相続財産の中にどの程度の消極財産があるのかを確認することはもちろんですが、そもそも何が相続財産なのか、何が相続財産ではないのかを知っておく必要があります。特に祭祀財産は、相続放棄しても祭祀の主宰者であれば継承することができるということを知っておいてください。

【相続】代襲相続とは

2020-01-15

一般的に、遺産というのは亡くなった人の妻や子どもに相続されます。しかし、不幸にして親よりも先に子どもが亡くなってしまうというケースも稀にあります。
そういう場合は、相続人になるはずであった子どもの子ども、つまり被相続人から見て孫にあたる人物が相続人になるという、いわゆる「代襲相続」が発生します。
ここでは代襲相続についてご紹介します。

 

代襲相続とは

代襲相続とは、被相続人よりも先に相続人が亡くなっている場合などに、その相続人の子どもが相続人になることをいいます。

被相続人の子どもがすでに亡くなっている場合は、孫が相続人になります。また、その孫も亡くなっている場合には、ひ孫が相続人になり、これを再代襲相続と言います。

相続人が被相続人の兄弟姉妹である場合、甥や姪に代襲相続することはありますが、甥や姪が亡くなっている場合には、それ以上の再代襲相続はありません。

代襲相続の範囲はどのようになっているのでしょうか。

代襲相続の範囲

まずは相続人の範囲を見てみましょう。

(被相続人から見た続柄)

第一順位の相続人

子ども

第二順位の相続人

父母

第三順位の相続人

兄弟姉妹

相続は先ずは第一順位の人、第一順位の人が誰もいなければ第二順位の人、第二順位の人が誰もいなければ第三順位の人という順におこなわれます。

また、配偶者は常に相続人になります。したがって、被相続人に子どもがいる場合は、相続人は妻と子どもということになります。

第一順位の相続人がいない場合に、第二順位である父母と妻が相続人なります。

第二順位の父と第三順位の弟といった具合に、違う順位の人同士が同時に相続人になることはありません。

 

では代襲相続人の範囲です。

・第一順位の相続人(子ども)の子ども(孫)、更にその子ども(ひ孫)

第一順位の相続人(子ども)が亡くなっている場合は、孫が代襲相続人に、孫が亡くなっている場合はひ孫が再代襲相続人になります。このように第一順位の相続人に関しては直系の子孫が相続人の地位を継承して行きます。

・第三順位の相続人(兄弟姉妹)の子ども(甥、姪)

第三順位の相続人(兄弟姉妹)が亡くなっている場合は、その子ども(甥、姪)が代襲相続人となります。しかし、さらに甥、姪も亡くなっている場合は、もはや再代襲相続はおこなわれません。被相続人と甥や姪の子どもとでは、関係があまりにも薄いため、いわゆる「笑う相続人」を生み出さないという政策的配慮といわれています。

・被相続人の養子の子ども

被相続人の養子は相続人になります。その養子に「養子縁組をしたのちに生まれた子ども(被相続人から見て孫)」がいた場合は、その子ども(孫)は代襲相続することができます。

しかし、「養子縁組前に生まれた子ども(被相続人からみると、やはり孫)」の場合は、その子ども(孫)は、直系卑属(ひぞく)ではないため代襲相続はできません。

・被相続人の子どもの未亡人(すでに亡くなっている相続人の配偶者)

代襲相続人にはなりません。

 

代襲相続は、相続人が亡くなっている場合以外にも、相続人が被相続人の遺言書を破棄したり隠匿したりして相続人資格を剥奪される「相続人欠格」、被相続人が自分を虐待した推定相続人に相続させないよう家庭裁判所に請求することによって相続人資格を剥奪される「相続人廃除」などで、相続人が欠けた場合にも適用されます。

【相続】遺言書にも種類がある? 3種類の遺言書の特徴を知っておこう

2019-11-12

遺言書といえば、ドラマなどで一家の当主が亡くなったあと、弁護士が現れて遺言書を公開するというシーンが思い浮かびます。ドラマではあまり描かれることがありませんが、実は遺言書には種類があり、それぞれに特徴があるのをご存知でしょうか。

今回は、遺言書の種類と特徴について見ていきましょう。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、自分で作成した遺言書のこと。紙とペンと印鑑さえあれば作成できるので、費用がほとんどかかりません。また、誰とも相談せずに作成すれば、遺言の秘密も守られます。書き直すのも自由です。なお、方式については、次の記事をご参照ください。相続法改正 自筆証書遺言の方式の緩和について

一方で、専門家のチェックを受けていないので、不備があれば無効になる可能性もあります。

紛失や隠匿、偽造、死後どうやって相続人たちに遺言の存在を知らせるか、という点も自筆証書遺言を作る際の問題です。また、相続時には家庭裁判所で検認を受ける必要があります。裁判所では形式のみチェックをし、内容については触れないので、後に内容について争われることもあり得ます。

(なお、令和2年7月10日から法務局で「遺言書保管制度」が開始されます。こちらを利用すれば裁判所の「検認」は不要となります。また、紛失や相続人への通知の問題は解消される見込みです。)

費用をかけずに遺書を残したい人、大きな財産がない人、相続人の仲が良く遺産相続でもめそうにない場合などは自筆証書遺言が向いていると言えます。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証人に作成してもらい、公証人役場に保管してもらう遺言書のことです。

公証人は元判事や元検事など、長年法律に関わってきた人が法務大臣によって任命される公務員ですから、法律のプロです。そのプロにきちんと確認してもらって作成するので、遺言書に不備があるという事態にはならず、法的には最も安全と言えます。また原本は公証人役場で保管されるため、改ざんや紛失の危険性がないのがメリット。裁判所の検認も不要です。

しかし、作成には時間と費用がかかること、相続に関わらない成人2名を証人にしなければならないため、遺言の内容を第三者に知られてしまうというデメリットもあります。

とは言え安全で確実な方法です。実際、3つの遺言のうち最も多く使われているのが、この公正証書遺言になります。

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは自分で作成した遺言書に封をした状態で公証人役場に持っていき、遺言書を作成したということを証明してもらう遺言書のことです。

公証人のほかに証人2名が必要になりますが、封をした状態で持っていくので遺言書の内容に公証人や証人はタッチしていません。そのため、遺言の秘密は守られるわけですが、一方で法律上の要件を満たしているかなどのチェックをしてもらえないので、不備があると無効になる可能性があり注意が必要になります。

自筆証書遺言と同様に、相続時には家庭裁判所での検認も必要です。

遺言の中身は秘密にしておきたいが、遺言の存在そのものの証明はしてほしいという方に向いている遺言書になります。

 

3つの遺言書のうち、一番多いのが公正証書遺言、次に自筆証書遺言です。3番目の秘密証書遺言は年間100件程度と少数派です。遺言書を書くことを考えているなら、どのタイプの遺言書で残すかも一緒に考えておきましょう。

【相続】遺産相続トラブルを回避! 知っておきたい予防対策

2019-10-26

遺産相続のトラブルは資産家だけの話ではありません。ごく普通の、一般的な家庭にも起こり得るトラブルです。しかし、こうしたトラブルは事前に対策を立てておくことで回避できるものも多くあります。

そこで今回は、遺産相続トラブルを回避するための予防策についてご紹介しましょう。

遺産相続ではどんなトラブルが多い?

多くの場合、遺産相続のトラブルは「不公平さ」から発生します。

法定相続分どおりに分けるとすると、同居や介護をして最期まで面倒をみた人と、普段は遠くにいて分割協議にだけ姿を現す人が同じ取り分では、前者の立場の人が納得いかないのは当然と言えるでしょう。

また、こうした相続人同士の取り分の不公平感の他にも、特定の相続人が遺産を独り占めしている、両親が相次いで亡くなる二次相続、不動産など分割が難しい遺産の分割協議、婚外子など思わぬ人物の登場など、トラブルのもとはたくさんあります。

遺産相続でトラブルが続出している背景には、もう一つ、遺言書の作成がされていないということがあります。

遺言書がないと、被相続人の死後に相続人たちが話し合って遺産の分け方を決めることになるため、お互いの主張がぶつかり合ってもめることになるのです。

法律で定められている遺産の相続のしかた

遺言で相続の方法について指定されていない場合は、法律に則って遺産を分割することになります。

この取り分も民法に規定されており、被相続人の配偶者が遺産の2分の1を、残り2分の1を子供達が均等に分けます。

相続の順位は、第1順位が子供、第2順位が被相続人の両親、第3順位が被相続人の兄弟姉妹です。

遺言書を作成している場合は、法律のとおりに分ける必要はなく、遺産分割協議をおこなう必要もありません。とはいえ、遺言書があっても事情があってそのとおりに分割することが難しい場合は、相続人同士で遺産分割協議を行うこともできます。

相続トラブルを避ける5つの対策

遺産相続トラブルを起こさないためには、第一に、生前に被相続人と相続人がしっかりコミュニケーションを取っておかなくてはいけません。どのような遺産があり、どのように相続してもらいたいのか、相続人同士も説明を受け、納得しておけばトラブルになりにくいものです。

第二に、遺産の目録を作っておくこと。どのような遺産があるのか把握しておかなくては、どう分けるか話し合うこともできません。

第三に、相続税の対策をしておくこと。相続税は相続人全員で連帯責任を負います。払えない人がいると、一旦他の相続人が負担することになるので、相続税がどういうものなのか、いくら発生するのか確認しておきましょう。

第四に、法定相続人の数の確認。いざ相続というときになって婚外子が発覚するなどの可能性があります。婚外子も認知されていれば実子として平等に遺産をもらう権利がありますので、誰が相続人になるのか調べておきましょう。

第五に、法律上はどのような分け方になるのか、予め知っておくことが有用です。その上で生前に被相続人を交えてよく話し合った方が、思わぬトラブルは回避できるでしょう。

分け方の不公平感がトラブルのもとですから、予めどう分けるか全員で話し合っておくことが肝心です。ここでご紹介したことを参考にして、遺産相続に関しては早いうちから準備しておくようにしましょう。

【相続】婚外子の遺産の取り分はどうなる? 婚外子と相続の関係

2019-07-20

「婚外子(こんがいし)」とは結婚していない男女から生まれた子供のことです。父親から認知されているか、されていないかで相続権の有無が変わってきます。2013年の民法改正により認知されている子の相続分は、嫡出子(ちゃくしゅつし=法律上の婚姻関係がある男女から生まれた子)と同等となりました。

婚外子とは? 相続権が発生する婚外子について確認

結婚していない男女から生まれた子供のことを婚外子、法律用語では「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」と言います。未婚のまま生んだ子供や、事情があって入籍をしていない男女の子供がこの婚外子に当たるのです。逆に、入籍している男女から生まれた子供は嫡出子と言います。後に夫婦が離婚して一人親になったとしても、入籍している間に生まれた子供は嫡出子です。

婚外子には父親に認知されているケースと、認知されていないケースが存在します。

父親に認知されているということは、両親は結婚していないけれど「生まれてきた子は父の実子と認められた」ということです。その結果、子供の戸籍にはその父親の名前が載ることになります。法的にきちんと「実の子である」と認められているので、相続の際には他の実子と同じように相続権が発生します。

これに対し、認知されていない婚外子には相続権は発生しません。

婚外子は父親が死去し、相続の話が出て来たときになって突然見つかるケースも少なくありません。父親が家族関係に配慮して秘密のままにしておくからなのですが、遺産分割協議をするためには相続人すべてに協力してもらわなければなりませんので、婚外子のことは必ず知られてしまいます。婚外子を無視しての遺産分割協議は無効となるので注意しましょう。

婚外子の相続分はどうなる?

かつて民法900条では「子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。」と規定されていました。そのため、長らく「実子であるのに嫡出子と婚外子の扱いが違うのは憲法違反ではないか」という指摘がされていたのです。

現在では、2013年の最高裁の違憲判決を受けて「ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし」の部分が削除され、婚外子でも認知されていれば嫡出子と同じ扱いを受けられることになりました。

法定相続分は、死去した父親の妻が2分の1、残る2分の1を実子全員で均等に分けることになります。

 

認知した婚外子を秘密にしておくと、相続の際にトラブルになることはよくあります。婚外子であっても被相続人の実の子なのですから、扱いは全員平等になることを知っておきましょう。なお、トラブルを避けるためには、遺言書を作成しておくことが有効です。

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